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背くらべ ---- 海野厚/中山晋平
大正12年(1923年)5月
『「子供達の歌」 第3集』
 
背くらべ
 
作詞 海野 厚
作曲 中山晋平


 
 若くして亡くなった俳人、海野厚(本名、厚一)の出世作となる名作。
 歌詞にあるように端午の節句にちなんだ歌で、すくすくと育つ子どもの姿を描いている。1番目の歌詞は、おととしの同じ日に、兄が柱に付けてくれた背丈の印が、今になって見てみればやっとのこと羽織はおりひものたけでしかなかった、というもの。柱に小さなキズや印を付けて「背くらべ」をするのは、かつてはどこでも行われており、そんなごく一般的な子どもの日常風景から歌を練り上げたのは、いかにも童謡詩人らしい。
 自分の成長に驚く1番から、2番はその柱にもたれて山並みを少年が眺めているシーンへとかわる。旧暦5月は、これから夏にむかって山の緑も空の青も、いよいよ色鮮やかさを増してゆく季節。その、これもまたごく普通の日本の日常がいかに素晴らしいものである(あった)かを、詞の裏側に張りつけた歌だとも言えるだろう。
 1番最後に登場する富士 山は静岡出身の海野にとっては、特に書きこみやすい存在だったはずである。そしてこのシメの詞のはまり具合のよさは、晋平のメロディ作りの的確さと共に、「富士 山は日本一の山」というイメージを日本人に決定づけることとなった。

 
せいくらべ
海野厚
  柱のきずはをととしの、
  五月五日のせいくらべ。
  ちまきたべたべ兄さんが、
  はかつてくれたせいのたけ。
  きのふくらべりやなんのこと
  やつと羽織はおりひものたけ。

  柱にもたれりやすぐ見える
  遠いお山もせいくらべ。
  雲の上まで だして、
  てんでにせい伸してゐても、
  雪の帽子ぼうしをぬいでさへ、
  一はやつぱり富士 の山。
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2006/11/14(火) 08:52 板倉
  〜海野春樹氏が抱く、兄(海野厚)の思いで〜

  ここに、厚の実弟、海野春樹氏を植田滋氏がインタビューし読売新聞に掲載された記事を転載させて頂きます。
       (読売新聞 年月日不詳 2001年かと思われます。春樹氏はまもなくして亡くなりました。)
      
 「他人には些事(さじ)にしか見えないのに、本人には永くのしかかってくる出来事というものがある。
 海野春樹(88)(元大阪芸術大教授)の身に、それは中学生になったばかりの1925年(大正14年)5月20日に訪れた。

 その朝、春樹少年に母親が頼み事をした。「春ちゃん、朝ごはんを作ったから、厚兄さんの所に届けてちょうだい」。春樹より17歳年上の兄・海野厚(1896〜1925年)は近所で結核の病床にあった。だが弟は不機嫌。母の頼みを聞かず、プイと家を飛び出してしまった。静岡から東京・目黒に越してきたばかりで、気持ちは大都会の雑踏に向いていたのだ。

 大久保あたりをうろついていた午前10時ごろ、兄が死んだ。28年10ヶ月の命だった。「なぜあの時、弁当を届けなかったか。」春樹の心に悔やんでも悔やみきれない気持ちが残った。

 結核患者が弁当を1つ余計に食べたところで、寿命が延びたとは考えにくい。しかし、弟が罪悪感を強く持ったのは、兄から深い愛情を感じ取っていたからである。ほかならぬ『背くらべ』の歌詞が、兄の弟に対する愛情表現だった。


 春樹は解説する。「この歌は日本の風景を一般的に描いたものではありません。兄が弟の私の気持ちに成り代わって作ってくれた具体的な歌なのです」

 それを読み解くカギは、1行目の「おととし」にあるという。厚は19歳で故郷・静岡市を離れて上京しているが、詞が「おととし」なのは、作詞当時、実際に2年間帰郷できなかった事実があったからである。

 東京で俳句や童謡の世界にのめり込み、雑誌編集などに没頭していた厚は、病弱だったこともあり1919年を最後に帰郷していない。中山晋平が曲をつけてレコード化されたのが1923年5月だから、作詞したと推定される22年か23年、詩人はちょうど東京で「静岡に住む弟は、この2年でどれだけ大きくなったろう?」と想像する状況にあったという。

 モデルが末弟の春樹だったという根拠は、6行目「羽織の紐(ひも)のたけ」。長兄の厚には3人の妹と3人の弟がいたが、「末弟の私は小学生3、4年生で、ちょうど羽織の紐が気になる年ごろだった。そして、その年齢の子供が2年で伸びる身長が、まさに羽織の紐の長さと一致するんです」。

 19歳で上京した厚にとって、17歳下の春樹は特別な弟だった。共に暮らす期間が短く、弟の成長は時折の帰郷で確認していた。それだけに2年も帰れなかったことが「弟も寂しがっているだろう」という気持ちをつのらせ、『背くらべ』創作へとつながった。

 この歌は真実を背景にしているだけに、実は1番だけで完結していた。2番はレコードに吹き込む際、中山晋平の要望で付け加えられた。このため、『背くらべ』掲載の「子供達の歌第3集」が出版された時、厚自身が「場合によっては1節の歌だけで十分と思ひます」と注釈をつけている。

 しかし、追加された2番も、単なる空想ではない。静岡市曲金の厚の生家からは、実際に富士山が望めた。そして左に見える龍瓜(りゅうそう)山と右にそびえる富士山は、現実に背くらべをしていたのだ。

 今でも厚の生家に近く、彼も通った静岡市の西豊田小学校の校舎からは、富士山と龍瓜(りゅうそう)山の背くらべを望むことができる。変わったのは、校舎わきに『背くらべ』の記念碑が立ったことだろうか。
 
 現在、春樹は静岡も東京も離れ、兵庫県に住んでいる。自ら病床の身となり、故郷に戻ることは困難になったが、今も変わらず「あったかい兄さんだったなぁ」としみじみ思い出す。弁当を届けなかった後悔の念も、ずっと忘れたことはない。
 (植田 滋 記)
(参考)http://www32.ocn.ne.jp/~ginzanokaze/Nao/u.atusi.htm  
          
2008/06/13(金) 17:50 田村ひとみ
この4月から声楽を習い始めました。子育ても一段落。童謡など日常で楽しめたらいいな〜と言う思いです。童謡歌集に「背くらべ」があり、先生がネットで歌の意味調べてねと宿題を出され、それでこのサイトに行き着きました。春樹さんの後悔を思うと胸が熱くなります。それを思うとこの歌を歌う時に今までと異なった意味で目頭が熱くなる私です。人を思う気持ちは大切にしたいです。大切に歌わせていただきます。
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中山晋平
なかやま・しんぺい
明治20年3月22日〜昭和27年12月30日
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